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  • T.S(Ensemble”Eroica”)

ブラームス 小話 その4      ベートーヴェンのオマージュ

 ブラームスが21年もの歳月をかけて交響曲第1番を完成させたのは有名な話です。

ベートーヴェン没後のクラシック界(ウィーン楽壇会)は、そのスタイルを系統的に引き継ぐ者を欲していました。「作曲中絶えず背後に巨人の足音を聴いていた」とブラームスが交響曲第1番の構想中に記した通り、ブラームス自身も交響曲を完璧に仕上げなければならないという使命感に誠実に応えたため、このような時間を要する結果となったのです。

 交響曲第1番、四楽章の弦楽器で演奏される第一主題が、ベートーヴェン第九の『歓喜の歌』に似通っているのは誰でも知っている話ですが、それを知人から指摘されたブラームス自身も「そんなことは犬でも分かる」と言って笑ったそうです。

 そもそも、交響曲第1番はハ短調で書かれていますが、これはベートーヴェンの交響曲第5番「運命」と同じ調です。ピッコロを欠いてホルンを加えた点を除けば、ベートーヴェンの交響曲第5番と編成がほとんど一致しています。また、第4楽章でのみトロンボーンが使用される点でも類似しています。

 そんな類似点を幾つかスコアを見ながら、見比べて見ましょう。

第2楽章は、非常に優美なメロディーで歌われる楽章ですが、その始まりの音形は、実はベートーヴェンの交響曲第6番『田園』の始まりと全く同じである事に気づかされます




 これは、第1楽章の240小節の Va/Vc から始まる 八分音符 三打と付点四分音符で奏でられ、ホルン、トランペットへと引き継がれる形も、ベートーヴェン交響曲第5番『運命』の三楽章の有名なホルンによるモチーフに極似しています。




 話は変わりますが、ベートーヴェンは古典派音楽の頂点であると同時に、古典派音楽を破壊した旗手でもありました。ブラームスは交響曲第5番に代表されるようなモチーフを用いた古典的な手法に感化され、その一方で同時期に活躍するワーグナーは交響曲に合唱を取り入れた交響曲第9番のような新しい手法に感化されます。

 このようにベートーヴェンの諸手にある相反する創造と破壊という二つのファクターが、彼の死後、創造を継承するブラームス派と、破壊を継承するワーグナー派という、二つの対立する派閥を生み出していくことになります。

 しかし、ブラームス自身はワーグナーの作品を積極的に鑑賞、研究していましたし、ワーグナーもブラームスという派閥の旗頭を攻撃する事はあっても、ブラームスの作品を否定する事は決して有りませんでした。

 そんなベートーヴェンによって結びつけられた ブラームスとワーグナー。

ワーグナーの作品には、ブラームスへのオマージュも隠されています。


 マーラーの交響曲第三番は、彼自身の交響曲の中でも最大規模と、最長の傑作ですが、第一楽章 8本のホルンの斉奏で出るのが第1主題。この主題はブラームスの交響曲第1番のフィナーレ主題の進行に似ています。

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